コロナで失われゆく高知県の酒文化
こんにちは、安住庵・支配人の渡邊です。
高知県人の酒呑み気質は全国的にも有名で、一人当たりの年間の酒の消費量は全国的にもトップクラスです。
何かにつけ宴席に結び付け、子どもの初節句など本人(赤ちゃん)とは全く関係のないところで大人たちの酒飲みの口実にされることも。
結婚式などは、招待状の返信のハガキに〈参加●人〉のように人数を記入する欄があって、何人でも自由参加できるような有様でした(すべてではないでしょうが)。
とにかく大人数で酒を飲むことに生きがいを感じている、そんな県民性があるのだろうと県外出身の私は思っていました。
そんな酒を愛する高知県民にもこのコロナ禍は多分に影響を与え、これまで培ってきた酒文化が今まさに衰退してしまうのではないかという危機であることは間違いないでしょう。
●おきゃく
前述したように高知県では大人数での宴席を好む風習があり、知らない人同士が初めてあっても打ち解けて仲良く酒を酌み交わす。
交流の場ともいうべきこの宴会自体をいつしか〈おきゃく〉と呼ぶようになったということです。
おきゃくでは女性であっても給仕に立たなくていいようにと、高知県の郷土料理〈皿鉢料理〉が生まれたと言われています。
●返盃(へんぱい)
宴会が始まって最初は、みな自分の席でお料理を食べながら周りの人たちとビールを呑み始めます。
しばらくして席上に日本酒が出されると(高知県では季節を問わず熱燗が主流)、遠くの席の知っている人の元へ〈自分の杯とお酒〉をもって出向きます。
どうもどうもと自分の盃を相手に渡し、酒を注ぐことを〈酒をさす〉と言います。
そして盃を渡された方はこれを飲み干し、相手にそれを返して酒を注ぐ。
これを〈返盃〉と言います。
話しをしながらこれを数回繰り返す間盃は行ったり来たり。
これは一往復がひとつの単位となって、最初に渡した方に盃が戻るまで続きます。
決して渡された方が止めてはいけないのです。
〈マイ盃〉が自分のところに戻ってきて、最初に渡した人が話の切れ目のいいところでまた違う席へと移動します。
この行為が宴席上あちこちで行われ、宴の中盤ではもはや自分の席がどこだったかは全く不明に。
お料理も最初に食べておかないと、途中ではなかなか食べるチャンスがなくなります。
●可盃(べくはい)
普通の宴席ではあまり見かけないですが、ディープな宴会遊びの小道具として〈可盃〉があります。
宴会の何かの余興で負けた方がバツとして酒を呑むことになるのですが、この時使用されるのがべく盃。
ひょっとこの形をしたものやコマ型のものなどいろんな形があり、とにかく入っている酒を飲み干さないと置くことができないという悪魔のような代物です。
私はこちらに来てからの25年の間実際の宴会で使っているのは見たことないですが、その昔にはよく使われていたそうです。
コマの形をしたものや穴あきの盃
コロナ禍ではとにかく大人数での会食が控えられ、他人が口をつけたものを使い回しするような行為はもってのほか。
高知が誇る酒文化の真逆が良しとされるようになっています。
今は随分とコロナ禍による規制も緩和されつつありますが、これらがどこまで復活しうるのか。
大きな危機感と悲壮感でいっぱいですが、高知市内では〈おきゃくイベント〉を今年も規制の中で開催するようですので、ひとつの指標として注視しています。